2022年6月8日水曜日

青空に

今朝も青空でぽっかり雲が浮かんでいました。
中川李枝子さんの「くじらぐも」を思い出しました(*^^*)
辛くなるニュースが多い中で紹介されていたのが

大好きな気持ちを写真に」(NHK金沢 5月17日)

原嶋あさよさんのInstagram
昨日紹介した『枕草子』
実は、清少納言のことあまり好きではなかったです。
でも、島内裕子さんの著書を読むうちに清少納言への見方が変わりました。
例えば、昨日、大工の食事風景(「能因本」313段)を
島内さんの現代語訳と評を転記すると( ..)φ
(「春曙抄」では第317段、三巻本には載っていません)
【第317段】
訳 大工の者たちが食事をするのは、たいそう不思議な光景だ。
新しい御殿を建てて、東の「対(つい)の屋(や)」のような建物を作るというので、大工たちがたくさん集まっている。
並んで座って、食事をしているのを、東向きの部屋まで出て行ってわたしが見ていると、まず最初に、「持ってくるのが遅いので、待ちきれない」とばかりに、汁物を取って、それを全部飲んでしまって、汁物が入っていた土器は、そのまま、ぽんと、そのあたりに置いてしまう。
次におかずを、全部食べてしまう。
「ご飯は、要(い)らないのだろうか」と見ているうちに、彼らはあっという間(ま)に御飯だけを平らげて、空(から)にしてしまった。
その場に、二、三人いた者が、皆、同じような食べ方をしたので、「大工の食事風景は、そういうものなのだろう」とわたしは思ったことだった。
それにしても、何てお行儀が良くないのかしら。
(『枕草子 下』清少納言著、島内裕子校訂・訳 ちくま学芸文庫 2017年)
評 大変に珍しい食事光景である。
ただし、大工たちに料理を提供する側が、一度に全部を用意できず、一品ずつ持ってきたのを、全部揃うのを待ちきれずに、一品ずつ片付けていったということなのかもしれない。
「勿体」は、重々しさや品格のこと。
(『枕草子 下』清少納言著、島内裕子校訂・訳 ちくま学芸文庫 2017年)
 定子の辞世の歌と一条院の歌が『後拾遺和歌集』にしるされています。 

後拾遺和歌抄第十 哀傷

  一条院(いちでうゐん)の御時、皇后宮(くわごうぐう)かくれたまひてのち、
  帳の帷(かたびら)の紐(ひも)に結び付けられたる文(ふみ)を見付(みつ)けたりければ、
  (うち)にもご覧ぜさせよとおぼし顔(がほ)に、
  歌三
(うたみ)(か)き付(つ)かられたりける中(なか)

536 夜もすがら契(ちぎ)りしことを忘(わす)れずは(こ)ひむ涙(なみだ)の色(いろ)ぞゆかしき
(『後拾遺和歌集』久保田淳、平田喜信校柱 岩波文庫 2019年)
  夜通し約束されたことをお忘れにならないのであったなら、私のことを恋うてくださるその涙の色が知りたいことです。 栄花物語・鳥辺野。

皇后宮 藤原定子。一条天皇皇后。長保2年(1000)12月16日没、25歳。
帳の帷の紐 御帳台のとばりの合わせ目の紐。
 一条天皇。
歌三つ 栄花物語・鳥辺野には、536・537のほかに「煙とも雲ともならぬ身なりとも草葉の露をそれと眺めよ」の計三首を伝える。後拾遺和歌集の異本には、537の歌の次にこの歌を掲げる本がある。(後略)
恋ひむ (私を)恋しく思うであろう。
涙の色 血の涙の色。紅涙。「濃さまさる涙の色もかひぞなき見すべき人のこの世ならねば」(伊勢集)は、残る側から紅涙を歌う。▽藤原定家の百人秀歌に選ばれた歌。
537 知る人もなき(わか)れ路(ぢ)に今(いま)はとて心ぼそくもいそぎ立(た)つかな

 だれも知る人のいない死出の旅路に、今はもうこれまでと心細い気持のまま急ぎ旅立つことです。 栄花物語・鳥辺野。

別れ路 人と別れゆく路。死に別れて行く路。冥途の事なるべし」(八代集抄)。「この世にはかなくてもやみぬ別れ路の淵瀬に誰をとひてわたらん」(大和物語111段)。
  長保二年十二月に皇后宮うさせたまひて、葬送(そうそう)の夜(よ)
  雪の降(ふ)りて侍(はべ)りければつかはしける 一条院御製

543 野辺(のべ)までに心ひとつは通(かよ)へども我(わ)みゆきとは知(し)らずやあるらん
 送りの野辺までに自分の心だけは行き通うのだが、亡き君は私の行幸とは気がつかなないのだろうか。 栄花物語・鳥辺野。

皇后宮 定子。
葬送の夜 長保2年(1000)12月27日六波羅蜜寺で葬儀。夜、鳥辺野で土葬。
野辺 葬送の野。ここでは鳥辺野。
〇二句 身はともかく心だけは。
みゆき 「行幸」に「深雪」を響かせる。
(『後拾遺和歌集』久保田淳、平田喜信校柱 岩波文庫 2019年)
定子が子どもを産み、その後、亡くなったことを思うと
帝に寵愛された桐壺の巻の更衣の最期が重なります。
桐壺(きりつぼ)

…前略…

「死出の旅路にも、必ずふたりで一緒にと、あれほど固い約束をしたのに、まさかわたしひとりをうち捨てては、去って行かれないでしょう」
 と、泣きすがり仰せになる帝のお心が、更衣もこの上になくおいたわしく切なくて、

  限りとて別るる道の悲しきに
     いかまほしきは命なりけり

(今はもうこの世の限り あなたと別れひとり往く 死出の旅路の淋しさに
 もっと永らえ命の限り 生きていたいと思うのに)
…後略…
(『源氏物語 巻一』瀬戸内寂聴訳 講談社文庫 2007年)