雨が降った後…

昨日、万灯会の後、夕食を食べにレストラン街に行くと雨が降っていました。
食事をしながら妹と姪に「今日も母さんが天気にしてくれたね」と話すと、
姪も「いつも晴れるな…」と呟いていました。
（雨が降ると万灯会が中止になることもあります）

うつせみの　
常（つね）の言葉（ことば）と　
思（おも）へども　
継（つ）ぎてし聞（き）けば　
心惑（こころまと）ひぬ　　
　　　　巻十二・2961　作者未詳

世間に
決まり文句だとは
思うけど
聞かされ続けると
心はやはり迷うよ
　　　　　（選者訳）
（『NHK 日めくり万葉集　vol.5』中村勝行編　講談社　2009年）

[選者　中西　進（国文学者）]
　万葉集にはこの歌のように、作者のわからない歌が半分以上あります。
つまり、名もなく、貧しく、しかし美しく生きている、
そういう人たちの歌が半分以上を占めている。
それが特色です。
これは、そういう人たちを代表する歌だと思います。
　これから結婚しようとする女性の歌でしょうね。
男性がプロポーズしてくれたとき、平凡なことしか言わない。
この女性は、こんな人と結婚したって碌（ろく）な将来は約束されないだろうと思う。
もし出世するような気の利いた男なら、
もっといいことを言ってくれるんじゃないだろうかと。
でも、そう言いながらも、その言葉を何回も聞くんですね。
そうすると、最初はこんな男は嫌だと思いながらも、心が迷ってしまうんです。
（『NHK 日めくり万葉集　vol.5』中村勝行編　講談社　2009年）

――この歌の、「心惑ひぬ」は、原文では「心遮焉（こころまとひぬ）」と書かれています。
遮断の「遮」という字を使い、心の動きが遮られて戸惑うことを表しているのです。
一人で思い惑う女性の気持ちがよく伝わってきます。

[中西]
　女性にとって結婚は、大海に船を漕ぎ出すようなものじゃないでしょうか。
そのとき、エイヤァーッとばかり決心する。
男が平凡だといって捨ててしまうのか、平凡だから誠実だと思って取るのか。
この歌は、そういうことを詠っていて、味わってみると、変わりばえもしないが、
とても確かな人間の心というものを表しています。
（『NHK 日めくり万葉集　vol.5』中村勝行編　講談社　2009年）

――無名の人の詠んだ歌が日本文学の伝統を作ってきた、と中西さんは言います。

[中西]
　大正時代に「私（わたくし）小説」という言葉がありました。
つまり、私という人間が主人公で、私の生活をそのまま書いた小説です。
これはヨーロッパの文学の理念からいえば、まったく取るに足らなくて、
文学とはなりえないものです。
　それを日本人は書いてしまう。
なぜなら、日本の文学表現の根底には和歌がある。
つまり、自分が自分の感じたことを語るという体質が連綿と続いているのです。
これが一番よく当てはまるのが万葉集です。
しかも、巻十一・十二という作者未詳歌を集めた、
あの巨大の歌のグループをズーッと読んでいくと、
まさに大正の「私小説」を読むような感じが、ビンビン響いてきます。
（『NHK 日めくり万葉集　vol.5』中村勝行編　講談社　2009年）

蝉時雨が心なしか小さくなったような…

戦はつひに敗れて止（や）みにけり槻（つき）の高木（たかき）に蟬しきり鳴く　　斎間　万
（『昭和萬葉集　巻七　山河慟哭
　　――焦土と民衆　20年8月15日～22年』講談社　昭和54年）

敗戦の日の前日、昭和20年8月14日に、
陸軍造兵廠を狙ったB29爆撃機が飛来し、京橋駅に数個の1トン爆弾を投下しました。
500人とも600人とも言われる犠牲者が出ました。
「京橋駅空襲被災者慰霊祭」

モンスズメバチがクヌギの樹液をもとめてやって来ています。

時々、顔についたのを払う様子が見られました。
どうもアリの攻撃を受けていたみたい…？
「スズメバチの食べ物」（動画）

同じクヌギの木にヒメジャノメが来ていました。

ムカシハナバチの仲間かな？

コヒルガオ（ヒルガオ科）

ひるがおなに思いさくすべてむなしく
（『風天 渥美清のうた』森英介　文春文庫　2010年）

コフキトンボ（トンボ科）が眼の手入れをしていました。
「トンボの眼」（動画）

なんか狐のような顔に見えたけど
モンクロシャチホコ（シャチホコガ科）のようです。

　　こひびとは般若の面をして来ると萌黄の朝の夢にいふかな　　永井陽子

　萌黄いろの朝、みた夢のなかで男がいうのである
「こひびとは般若の面をして来る」んだ、と。
この場合、男にとって「こひびと」は作者であろうか。
そうなら余計におもしろい。
「般若の面」をつけて恋人に逢う。
いや、逢いたい。
その願望が夢になったと思えなくはない。
（『歌のかけ橋』岡井 隆　六法出版社　昭和58年）