2022年10月27日木曜日

薄曇り

今朝の天気予報では、全国的に薄曇りだとか。
昼前の予報では、寒暖差が大きいので体調管理に注意!
雲は薄いけど日差しが弱く12月のような寒さでした。

WHOが気候変動の影響分析 “人命失われるのを防ぐため行動を”」(NHK)
 「立っていることが困難に 私が経験した“コロナ後遺症”」(NHK 10月25日)

帰宅後、妹がインフルエンザワクチンを接種するので病院へ送りました。
インフルエンザもワクチンを接種していても発病する場合があります。
新型コロナも接種していても発病する人がいる。
何度もワクチンを打つのはたまらないので、治療薬の研究、開発が進むことを願っています。

神戸大学「BA.5」に効果の抗体開発 治療薬への応用に期待〟(兵庫NHK 10月25日)
(「よだかの星」つづき)

 よだかは泣きながら自分のお家へ帰って参りました。
みじかい夏の夜はもうあけかかってゐました。
 羊歯(しだ)の葉は、よあけの霧を吸って、青くつめたくゆれました。
よだかは高くきしきしきしと鳴きました。
そして巣の中をきちんとかたづけて、きれいにからだの中のはねや毛をそろへて、また巣から飛び出しました。
(『新修 宮沢賢治全集 第八巻』宮沢清六、入沢康夫、天沢退二郎編集 筑摩書房 1979年)
 霧がはれて、お日さまが丁度東からのぼりました。
夜だかはぐらぐらするほどまぶしいのをこらへて、矢のやうに、そっちへ飛んで行きました。
「お日さん、お日さん。どうぞ私をあなたの所へ連れてって下さい。灼(や)けて死んでもかまひません。私のやうなみにくいからだでも灼けるときには小さなひかりを出すでせう。どうか私を連れてって下さい。」
 行っても行っても、お日さまは近くなりませんでした。
かへってだんだん小さく遠くなりながらお日さまは云ひました。
「お前はよだかだな。なるほど、ずゐぶんつらからう。今夜そらを飛んで、星にさうたのんでごらん。お前はひるの鳥ではないのだからな。」
 夜だかはおじぎを一つしたと思ひましたが、急にぐらぐらしてたうとう野原の草の上に落ちてしまひました。
そしてまるで夢を見てゐるやうでした。
からだがずうっと赤や黄の星のあひだをのぼって行ったり、どこまでも風に飛ばされたり、又鷹が来てからだをつかんだりしたやうでした。
 つめたいものがにはかに顔に落ちました。
よだかは眼(め)をひらきました。
一本の若いすゝきの葉から露がしたたってのでした。
もうすっかり夜になって、空は青ぐろく、一面の星がまたゝいてゐました。
よだかはそらへ飛びあがりました。
今夜も山やけの火はまっかです。
よだかはその火のかすかな照りと、つめたいほしあかりの中をとびめぐりました。
それからもう一ぺん飛びめぐりました。
そして思ひ切って西のそらのあの美しいオリオンの星の方へ、まっすぎに飛びながら叫びました。
「お星さん。西の青じろいお星さん。どうか私をあなたのところへ連れてって下さい。灼(や)けて死んでもかまひません。」
 オリオンは勇ましい歌をつゞけながらよだかなどはてんで相手にしませんでした。
よだかは泣きさうになって、よろよろと落ちて、それからやっとふみとまって、もう一ぺんとびめぐりました。
それから、南の大犬座の方へまっすぎに飛びながら叫びました。
「お星さん。南の青いお星さん。どうか私をあなたの所へつれてって下さい。やけて死んでもかまひません。」
 大犬は青や紫や黄やうつくしくせはしくまたゝきながら云ひました。
「馬鹿(ばか)を云ふな。おまへなんか一体どんなものだい。たかが鳥ぢゃないか。おまへのはねでこゝまで来るには、億年兆年億兆年だ。」
そしてまた別の方を向きました。
 よだかはがっかりして、よろよろ落ちて、それから又二へん飛びめぐりました。
それから又思ひ切って北の大熊星(おほぐまぼし)の方へまっすぐに飛びながら叫びました。
「北の青いお星さま、あなたの所へどうか私を連れてって下さい。」
 大熊星はしづかに云ひました。
「余計なことを考へるものではない。少し頭をひやして来なさい。さう云ふときは、氷山の浮いてゐる海の中に飛び込むか、近くに海がなかったら、氷をうかべたコップの水の中へ飛び込むのが一等だ。」
 よだかはがっかりして、よろよろ落ちて、それから又、四へんそらをめぐりました。
そしてもう一度、東から今のぼった天の川の向ふ岸の鷲(わし)の星に叫びました。
「東の白いお星さま、どうか私をあなたの所へ連れてって下さい。やけて死んでもかまひません。」
 鷲は大風(おほふう)に云ひました。
「いゝや、とても、とても、話にも何にもならん。星になるには、それ相応の身分でなくちゃいかん。又よほど金もいるのだ。」
 よだかはもうすっかり力を落としてしまって、はねを閉じて、地に落ちて行きました。
そしてもう一尺で地面にその弱い足がつくといふとき、よだかは俄(には)かにのろしのやうにそらへとびあがりました。
そらのなかほどへ来て、よだかはまるで鷲(わし)が熊(くま)を襲ふときのやうに、ぶるっとからだをゆすって毛をさかだてました。
 それからキシキシキシキシキシッと高く叫びました。
その声はまるで鷹でした。
野原や林にねむってゐたほかのとりは、みんな目をさまして、ぶるぶるふるへながら、いぶかしさうにほしぞらを見あげました。
 夜だかは、どこまでも、どこまでも、まっすぐに空へのぼって行きました。
もう山焼けの火はたばこの吸殻(すひがら)のくらゐにしか見えません。
よだかはのぼってのぼって行きました。
 寒さにいきはむねに白く凍りました。
空気がうすくなった為に、はねをそれはそれはせはしなくうごかさなければなりませんでした。
 それだのに、ほしの大きさは、さっきと少しも変りません。
つくいきはひごのやうです。
寒さや霜がまるで剣のやうによだかを刺しました。
よだかははねがすっかりしびれてしまひました。
そしてなみだぐんだ目をあげてもう一ぺんそらを見ました。
さうです。
これがよだかの最後でした。
もうよだかは落ちてゐるのか、のぼってゐるのか、さかさになってゐるのか、上を向いてゐるのかも、わかりませんでした。
たゞこゝろもちはやすらかに、その血のついた大きなくちばしは、横にまがっては居ましたが、たしかに少しわらって居(を)りました。
 それからしばらくたってよだかははっきりまなこをひらきました。
そして自分のからだがいま燐(りん)の火のやうに青い美しい光になって、しづかに燃えてゐるのを見ました。
 すぐとなりは、カシオピア座でした。
天の川の青じろいひかりが、すぐうしろになってゐました。
 そしてよだかの星は燃えつゞけました。
いつまでもいつまでも燃えつゞけました。
 今でもまだ燃えてゐます。
(『新修 宮沢賢治全集 第八巻』宮沢清六、入沢康夫、天沢退二郎編集 筑摩書房 1979年)