天気はよかったのですが、風が冷たかった
日向ぼっこをしているカモが多かったです(^_-)
寒気はしばらく居座るみたいですね…
長居をする客にはほうきを逆さに立てる風習(【京のしきたり基礎知識】)があるようですが、
寒気には効果はないだろうなぁ……
「今季一番の寒気 近畿北部4日夜から雪強まる 厳しい寒さ続く」(関西NHK)卵は物価の優等生ともいわれていましたが
〝“物価の優等生”と呼ばないで…! 国民食「卵」のジレンマ〟(NHKクローズアップ現代 2023年7月25日)
「卵の価格 高止まり続く その背景は」(NHK 2月1日)
鳥インフルエンザの影響があるそうです。
卵が高いどころか手に入りにくい時代がありました。立春のニュース映像があります。
「立春とタマゴ<時の話題>」(NHKアーカイブス 1947年)
同じ年の2月12日に発表されたエッセイ
立春の卵
立春の時に卵が立つという話は、近来にない愉快な話であった。
2月6日の各新聞は、写真入りで大々的にこの新発見を報道している。
もちろんこれはある意味では全紙面をさいてもいいくらいの大事件なのである。
(『雪は天からの手紙 中谷宇吉郎エッセイ集』池内了編 岩波少年文庫 2002年) 昔から「コロンブスの卵」という諺があるくらいで、世界的な問題であったのが、この日に解決されたわけである。
というよりも、立春の時刻に卵が立つというのがもしほんとうならば、地球の回転か何かに今まで知られなかった特異の現象が隠されているのか、あるいは何か卵のもつ生命に秘められた神秘的な力によるということになるであろう。
それで人類文化史上の一懸案がこれで解決されたというよりも、現代科学に挑戦する一新奇現象が、とつじょとして原子力時代の人類の眼(め)の前に現出してきたことになる。 ところで、事実そういう現象が実在することが立証されたのである。
朝日新聞は、中央気象台の予報室で、新鋭(しんえい)な科学者たちが大勢集まって、この実験をしている写真をのせている。
九つの卵がなめらかな木の机の上にちゃんと立っている写真である。
毎日新聞では、日比谷(ひびや)のあるビルで、タイピスト嬢が、タイプライター台の上に、十個の卵を立てている写真をのせている。
札幌の新聞にも、裏返しにしたお盆の上に、五つの卵が立っている写真が出ていた。
これでこの現象自身は、どうしても否定することはできない。 もっともこの現象は、こういう写真を見せられなくても、簡単に嘘だろうとは片づけられない問題である。
というのは、上海(しゃんはい)ではこの話が今年の立春の二、三日前から、大問題となり、今年の立春の機を逸せずこの実験をしてみようと、われもわれもと卵を買い集めたために、一個五十元(げん)の卵が一躍(いちやく)六百元にはね上がったそうである。
それくらい世の中を騒がした問題であるから、まんざら根も葉もない話でないことは確かである。 朝日新聞に記事によると、この立春に卵が立つ話は、中国の現ニューヨーク総領事張平群氏が、支那の古書『天■(賢という字の貝の部分が且)』と『秘密の万華鏡(まんげきょう)』という本から発見したものだそうである。
そして、国民党宣伝部の魏(ぎ)氏が1945年すなわち一昨年の立春に、重慶(じゅうけい)でUP特派員ランドル記者の面前で、2ダースの卵をわけなく立てて見せたのである。
ちょうど硫黄島(いおうとう)危(あやう)しと国内騒然たる時のこととて、日本では卵が立つか立たないかどころの騒ぎでなかったことはもちろんである。
さすがにアメリカではベルリン攻撃を眼前にして、この話はそうセンセーショナルを起こすまでにはいたらなかったらしい。
ところが今年の立春には、ちょうどその魏氏が宣伝部の上海駐在員として在住、ランドル記者も上海にいるので、再びこの実験をやることになった。 ラジオ会社の実況放送、各新聞社の記者、カメラマンのいならぶ前で、三日の深夜に実験がおこなわれた。実験は大成功、ランドル記者が昨夜UP支局の床に立てた卵は、四日の朝になっても倒れずに立っているし、またタイプライターの上にも立った。
四日の英字紙は第一面に四段ぬきで、この記事をのせ、「ランドル 歴史的な実験に成功」と大見出しをかかげている。立春に卵が立つ科学的根拠はわからないが、ランドル記者は「これは魔術でもなく、また卵を強く振ってカラザを切り、黄味を沈下させて立てる方法でもない。ましてやコロンブス流でもない」といっている。みなさん今年はもうだめだが、来年の立春にお試しになってはいかが。 こうはっきりと報道されていると、いかに不思議でも信用せざるを得ない。
おまけに、この話はあらかじめ米国でも評判になり、ニューヨークでも実験がなされた。
ジャン夫人というのが、信頼のおける証人を前にして、三日の午前この実験に成功したのである。
「最初の二つの卵は倒れたが、三つ目はなめらかなマホガニーの卓(たく)の上にみごとに立った。時刻はちょうど立春のはじまる3日午前10時45分であった」そうである。 上海と、ニューヨークと、それに東京と、世界中いたるところで成功している。
立春の時刻はもちろん場所によって異なるので、グリニッチ標準時では2月3日午後3時45分である。
それがニューヨークでは3日午前10時45分、東京では5日午前零時51分にあたるそうである。
ところがジャン夫人の実験がそのニューヨーク時刻に成功し、中央気象台では、4日の真夜中から初めて、「用意の卵で午前零時いよいよ実験開始……30分に七つ、そして九つ、すねていた最後の一つもお時間の零時51分になるとピタリ静止した」そうである。
こうなると、新聞の記事と写真とを信用する以上、立春の時刻に卵が立つということは、どうしても疑う余地がない。
数千年の間、中国の古書に秘められていた偉大なる真理が、今日とつじょ脚光を浴びて、科学の世界に躍(おど)り出て来たことになる。 しかし、どう考えてみても、立春の時に卵が立つという現象の科学的説明はできそうもない。
立春というのは、支那伝来の二十四季節の一つである。
一太陽年を太陽の黄経(こうけい)にしたがって二十四等分し、その各等分点を、立春、雨水(うすい)、啓蟄(けいちつ)、春分、清明(せいめい)……というふうに名づけたのである。
もっと簡単にいえば、太陽の視黄経(しこうけい)が315度になった時が、立春であって、年によって少しずつ異なるが、だいたい2月4日頃にあたる。
地球が軌道(きどう)上のあるその一点に来た時に卵が立つのだったら、卵が315度という数値を知っていることになる。 いかにも不思議であって、そういうことはとうていあり得ないのである。
ところがそれが実際に世界的に立証されたのであるから、話がやっかいである。
支那伝来ふうにいえば、立春は二十四季節の第一であり、一年の季節の最初の出発点であるから、何か特別の点であって、春さえ立つのだから卵ぐらい立ってもよかろうということになるかもしれない。
しかしアメリカの卵はそんなことを知っているわけはなかろう。
とにかくこれは大変な事件である。
…つづく…
(『雪は天からの手紙 中谷宇吉郎エッセイ集』池内了編 岩波少年文庫 2002年)
「令和 7年(2025) 暦要項」(国立天文台)