2022年10月8日土曜日

寒露

いつよもり1枚多く着て公園に向かったのだけど
自転車では、それでも寒かった…

近畿 11月上旬~中旬並みの気温 寒暖差大きく体調管理注意」(関西NHK 10月7日)
寒露 (かんろ)
二十四節気 晩秋 陽暦10月9日ごろ 太陽黄経195度
 
陽暦の10月9日ごろ。
寒露は「草木に降りる露は冷たく、霜になりそうである」というような意。
実際の気候は、秋本番だ。
9月から続いた秋の長雨も上がり、さわやかな秋晴れの空に恵まれることが多くなる。
朝晩には、肌寒ささえ感じるだろう。
しかし秋の好天は、ひんぱんに訪れる移動性高気圧によるものなので長続きせず、天気は変わりやすい。
寒露をすぎると、北海道では初霜が見られる地域があり、九州からはツバメが姿を消す。
(『ヤマケイポケットガイド(25)雲・空』田中達也 山と渓谷社 2001年)
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~web岩波 たねをまく~
『アイヌ神謡集』を携えて――

旅へ本を連れて行く「現地読み」。
札幌から特急で1時間。白老駅から10分ほど歩いたところにあるウポポイ(民族共生象徴空間)へ


旅よみ~ウポポイ *tanemaki diary
 「巻第二十九 (ひと)に知(し)られぬ女盗人(おんなぬすびと)の語(こと) 第三」続き

 此の男は、此の家に返り来たりければ、湯涌(わか)し儲(もう)け食物(くいもん)など儲て待(まち)ければ、然様(さよう)の事など皆畢(はて)て、二人臥ぬ。
此の女の難去(さりがた)く哀れに思(おぼ)えければ、男、此れを疎(う)とみ思ふ心も無かりけり。
(か)く様(よう)に為(す)る事、既に七八度に成にけり。
(あ)る時には、打物(うちもの)を持せて内にも入れけり。
或る時には、弓箭(ゆみや)を持(もち)て外(と)にも立てけり。
其れに皆(み)な賢く翔(ふるまい)ければ、如此(かくのごと)くして有る程に、女、鎰(かぎ)を一つ取出(とりいで)て、男に教へて云く、「此れ、六角よりは北、□よりは□に、然々(しかしか)云はむ所に持行(もてゆき)て、其(そこ)に蔵何(いく)つ有らむ、其の蔵の其方(そなた)なるを開(あけ)て、目に付かむ物を吉く拈(したた)め結(ゆ)はせて、其の辺(ほとり)には車借(くるまかし)と云ふ者数(あまた)有り、其れを呼(よば)せて積て持来(もてこ)」とて遣(やり)たりければ、男、教ふるまゝに行て見けるに、実(まこと)に蔵共有る中に、教へつる蔵を開て見れば、欲(ほし)き物皆此の蔵に有り。
「奇異(あさまし)き態(わざ)かな」と思て、云けるままに車に積て持来て、思(おぼ)しき様(よう)に取り仕(つか)ひけり。
此様(かよう)にしつゝ過(すぐ)しける程に、一二年にも過ぬ。
(『今昔物語集 本朝部(下)』池上洵一編 岩波文庫 2001年)
 而(しか)る間、此の妻(め)、有る時に物心細気(ものこころぼそげ)に思て常に哭(な)く。
男、「例(れい)は此(かか)る事も無きに怪し」と思て、「何(な)ど此(かく)は御(おわ)するぞ」と問ければ、女、只「不意(こころなら)ず別れぬる事もや有らむずらむと思ふが哀(あわれ)なるぞ」と云ければ、男、「何(いか)なれば、今更に然(さ)は思(おぼ)すぞ」と問ければ、女、「暮(はか)無き世の中は然(さ)のみこそは有れ」と云ければ、男、「只云ふ事なめり」と思て、「白地(あからさま)に物に行(ゆか)む」と云ければ、前々(さきざき)(す)る様(よう)に為立(したて)て遣(やり)てけり。
 「共(とも)の者共、乗たる馬なども例の様(よう)にこそは有(あらん)ずらめ」と思ふに、二三日不返(かえる)まじき所にて有ければ、共の者共をも乗馬(のりうま)をも、其の夜(よ)は留(とど)めて有けるに、次の日の夕暮に、白地(あからさま)の様(よう)に持成(もてな)して引出(ひきいだ)しけるまゝに、やがて不見(み)えざりければ、男、「明日返らむずるには、此(こ)は何(いか)なる事ぞ」と思て、尋ね求めけれども、やがて不見(み)えで止(やみ)にければ、驚き怪(あやし)び思て、人に馬を借て怱(いそ)ぎて返(かえり)て見ければ、其の家跡形(あとかた)も無かりければ、「此(こ)は何(いか)に」と奇異(あさまし)く思(おぼ)えて、蔵の有し所を行て見れども、其れも跡形も無くて、可問(とふべ)き人も無かりければ、云甲斐(いうかい)無くて、其の時にぞ、女の云(いい)事思ひ被合(あわせられ)ける。
 然(さ)て、男、可為(すべ)き方(かた)無く思(おぼ)えければ、本(もと)知たりける人の許(もと)に行て過(すぐ)しける程に、為付(しつけ)にける事なれば、我が心と盗(ぬすみ)しける程に、二三度にも成にけり。
(しか)る間、男被捕(とらえられ)にければ、被問(とわれ)けるに、男、有(あり)のまゝに此の事を不落(おとさ)ず云けり。
 此れ、糸奇異(あさまし)き事也。
其の女は、変化(へんげ)の者などにて有けるにや。
一二日が程に、屋(や)をも蔵共をも、跡形なく無く壊失(こほちうしな)ひけむ、稀有(けう)の事也。
亦、若干(そこばく)の財(たから)・従者共をも引具(ひきぐ)して去(さり)にけむに、其の後(のち)不聞(きこえ)ずして止(やみ)にけむ、奇異(あさまし)き事也かし。
亦、家に居乍(いなが)ら、云ひ俸(おきつ)る事も無きに、思ふ様(よう)にして、時も不違(たがえ)ず来つゝ従者共の翔(ふるま)ひけむ、極て怪(あやし)き事也。
彼の家に、男二三年副(そい)て有けるに、「然也(さなり)けり」と心得(こころう)る事無くて止(やみ)にけり。
亦、盗しけり間も、来(きた)り会ふ者共、誰と云ふ事をも努不知(ゆめしら)で止にけり。
其れに、只一度ぞ、行会たりける所に差去(さしのき)て立(た)てる者の、異者共(ことものども)の打畏(うちかしこまり)たりけるを、火の焔影(ほかげ)に見ければ、男の色とも無く極(いみじ)く白く厳(いつくし)かりけるが、頬(つら)つき・面様(おもざま)、我が妻(め)に似たるかなと見けるのみぞ、「然(さ)にや有らむ」と思(おぼ)えける。
其れもたしかに不知(しら)ねば、不審(いぶかし)くて止にけり。
 此れ世の希有(けう)の事なれば、此(か)く語り伝へたるとや。
(『今昔物語集 本朝部(下)』池上洵一編 岩波文庫 2001年)

たしか」→「忄+遣」
 色香と鞭で若い男を調教する、盗賊団の美人首領(29-3)

✿当時の警察の尋問調書をもとにした短編とでもいえようか。
それにしても、絶妙な構成である。
男女二人の出会いから別れにいたるまで、スリルとサスペンスに満ち満ちている。
 男の目で描かれているが、街角で声をかけるのも、無言のまま消えるのも、リードするのは女のほうである。
同棲(どうせい)しながら、女は自分の口から正体を明かさないし、男も知ろうとはしない。
じつにおしゃれなラブストーリーだ。
(『今昔物語集』角川書店編 ビギナーズ・クラシックス日本の古典 平成14年)
 とりわけ、男装した彼女が男を台に縛りつけて鞭打つ場面は、息を飲むほど魅惑的である。
しかも、字数たっぷりに、きめ細かく描いている。
そこに女のサディズムと男のマゾヒズムの匂(にお)いをかぎとるのは、読者のお好みであるが、この女性上位の場面は、ありきたりの古典のイメージを一変させるほど、現代的で新鮮な味がする。
 芥川龍之介の『偸盗(ちゅうとう)』は本話に取材したものだが、そこにはこうした妖(あや)しい魅力は欠落している。
 調教される男も並みではなかった。
それを見抜いた女もすごいし、彼女の要求に応じることのできた男もすごい。
結末は悲劇的だが、男と女の物語としても一級品である。
(『今昔物語集』角川書店編 ビギナーズ・クラシックス日本の古典 平成14年)