2023年5月27日土曜日

蒸し暑くなってきました

朝はヒンヤリとしていたのに歩き出すと蒸し暑かったです。
台風は、まだ遠いけど偏西風に乗ると進路を変えるだろうなぁ

台風2号 月曜日以降に沖縄接近おそれ 高波に警戒を」(NHK 沖縄)
麻疹について前の記事で『医療民俗学序説』(畑中章宏 春秋社 2021年)より

はしかになると喉や肌がしびれたり、突き刺すような感覚を覚えたりする。
それを麦や稲の穂先でこすったような感覚として捉え、関西ではそれを「ハシカイ」と言い、関東では「イナスリ」と言った。


と紹介しました。
1章 ウイルスとは何者か
 2 不器用なウイルスと器用なウイルス


…前略…

 ただし天然痘ウイルスは、空気感染によるきわめて激しい伝播力という武器をもっている。
たとえば、ひとつの家に患者が出ると、家族の80%以上が感染する。
ただし、天然痘ウイルスはヒトにだけ感染する。
つまり自然界で宿主となるのはヒトだけであるという弱点がある。
したがって、まだ天然痘に感染していない、天然痘ウイルスに対して感受性のあるヒトが周囲にいなければ、ウイルスは生き残ることができず死滅する。
(『ウイルスの世紀 なぜ繰り返し出現するのか』山内一也 みすず書房 2020年)
…中略…

 麻疹ウイルスも、天然痘ウイルスとよく似ている。
自然宿主はヒトだけである。
ウイルスは咳などを介して広がる。
伝播力が強く、幼稚園などで一人の患者が出ると、あっという間に広がってしまう。
感染から回復した患者には一生続く免疫ができるため、再びウイルス増殖の場になることはない。
麻疹ウイルスが存続するためには、麻疹にかかったことのないヒトがたえず必要となる。
 麻疹ウイルスについては、興味深い疫学的なデータがある。
北大西洋にフェロー諸島という隔絶された島があり、ここには数世紀にわたって人が住んでいる。
医師のおかげで島の衛生状態は良好であり、1世紀半以上にわたって島での病気の流行が詳細に記録されてきた。
それによると、この地で1781年に麻疹が発生し、島中に広がった。
その後、麻疹の発生は65年間にわたってまったく起こらなかった。
麻疹ウイルスが島から消滅したとみなしてよい。
1846年に麻疹が再び発生し、子供の時に麻疹にかかったことのある少数の白髪世代を除いて、島中のヒトが麻疹にかかった。
1875年、3回目の麻疹が発生した際には、前回の流行で感染しなかったヒト、すなわち30歳以下のヒトだけに麻疹の発生が見られた。
 他方、1944年から1968年にかけて、英国の60ヵ所の町での麻疹の流行状況を分析した結果では、麻疹が存続するには、人口25万~40万人の都市生活集団が必要であるという数字が示されている。
それ以下の場所では、麻疹ウイルスは消滅することになる。
 このように天然痘ウイルスや麻疹ウイルスは、人間集団の中でしか生存していけず、生き残りの戦略から見ればいわば不器用なウイルスと言える。
 巧妙な生き残り戦略をもっているウイルスとしては、ヘルペスウイルスがある。
ヒトの間で存続している主なヘルペスウイルスは単純ヘルペスと水痘ヘルペスである。
いずれも子供の時にほとんどのヒトが感染する。
単純ヘルペスの場合には、口の周りに水疱ができる。
この中に含まれるウイルスがが、同じコップの使用やキスなどで子供の時に感染する。
病気が治まってもウイルスは三叉神経節の中に一生隠れ潜んでいて、免疫力が低下した時などに口の粘膜に出てきて、ヘルペス潰瘍を作る。
 水痘ウイルスは、空気感染で移り、その病変は体全体に広がる。
回復するとウイルスは体中の感覚神経節に潜んでしまう。
20年から40年くらい経って、免疫力の低下などでウイルスが目覚めると、皮膚に出現し、感覚神経に沿って潰瘍病変を作る。
病名は水痘から帯状疱疹に変わる。
 帯状疱疹の病変には大量のウイルスが含まれている。
これが家庭内などで子供に移り、水痘を起こすと考えられている。
南大西洋の孤島トリスタンダクーニャは、人口がわずか200人あまりで、水痘が発生するのは、大人に帯状疱疹が発生した時に限られていた。
麻疹のように大きな人口を必要とせず、小さな社会の中で、水痘―帯状疱疹―水痘という経路で何千年も受け継がれてきたのである。
…後略…
 3 なぜ、どのように病気が起きるのか

 そもそもウイルスに感染するとなぜ病気になるのだろうか。
ウイルス感染症の発病メカニズムは、ウイルス学が著しく進歩した現在でも、実はほとんどわかっていない。
 ウイルスを病原体として見ていると忘れがちだが、ウイルスに感染すると必ず病気になる(症状に気付く)とは限らない。
たとえばポリオウイルスは、ヒトの体内に入るとまず腸で増殖する。
しかし、それだけでは病気は起こさない。
ほとんどのヒトは、ポリオウイルスに感染しても、それと気付かずに治ってしまっているのである。
ところが、何らかの理由でポリオウイルスが消化器から脊髄の神経細胞に入ると、神経細胞を破壊して、ポリオの典型的な麻痺症状を起こす。
だが、どのようにしてウイルスが消化器から脊髄に入るのかは、ほとんどわかっていない。
…中略…

 さきほどの問いを言い換えてみよう。
ウイルスが体内で増えると、なぜいろいろな症状が出てくるのだろうか。
先に述べたように実験的な証拠が少ないため、ほとんど推測の域を出ず、説明はどうしても歯切れの悪いものになってしまうが、簡単に紹介してみよう。
 麻疹、風疹をはじめとする多くのウイルス感染では、発疹が特徴的な症状である。
これは、ウイルスが増えている皮膚の粘膜の組織で免疫反応の結果として起きてくると考えられている。
細胞にウイルスが感染すると、その感染した細胞を破壊してウイルスを排除しようとリンパ球などが集まってきて、さまざまな免疫反応を引き起こす。
その結果出てくるものが発疹というわけである。
元来は防御反応である免疫だが、この場合は、発疹という病変の形で認められるのである。
 一方、ウイルスによる脳炎はしばしば致命的になるか、後遺症を残すことが多い。
脳炎の場合も、免疫反応によって起こると考えられている。
マウスでの実験だが、脳炎を起こしたマウスの脳からは免疫反応の担い手であるリンパ球が検出される一方で、免疫反応が起こらない状態のマウスは脳炎を起こさないことが明らかにされている。
ヒトではこのような実験は不可能だが、病気の性質を考えると、同様のメカニズムがヒトのいくつかの脳炎の原因になっているらしい。
 たとえば、日本脳炎ウイルスは脳の神経細胞の中で増える。
そこで、免疫反応が脳の感染細胞を破壊しようとする。
これが防御反応そのものである。
ところが、壊される神経細胞は自分の身体の一部であり、しかも神経細胞は一度破壊されると皮膚の細胞のように再生してこない。
したがって、防御反応で神経細胞が壊されると、ウイルスは排除されるが同時に神経細胞の機能も破壊され、その程度が激しい神経麻痺のような脳炎の症状となって現れることになる。
 とくに問題となっているのは、サイトカインストームと呼ばれる病態である。
元は1990年初めに臓器移植の際に起こる激しい免疫反応に付けられた名称だが、ウイルス感染でも起きていると考えられるようになった。
サイトカインとは、インターフェロンなど、感染細胞から放出される一群の生理活性物質で、侵入してくるウイルスに対する自然免疫の担い手になっている。
このサイトカインの過剰な産生により、逆に全身の臓器に障害を与えるようになった場合がサイトカインストームである。
つまり、免疫の暴走である。
これが、インフルエンザをはじめ、SARSや新型コロナウイルス感染症などで重症化の原因になっていると言われている。
(『ウイルスの世紀 なぜ繰り返し出現するのか』山内一也 みすず書房 2020年)